「自宅を売った後も、今までと同じ家に住み続けられます」
このように説明されると、リースバックは老後資金や借金返済、住み替え費用を確保する便利な方法に見えます。引っ越しをせずにまとまった現金を受け取れるため、住宅ローンや生活費に不安がある人にとっては魅力的に感じられるかもしれません。
しかし、自宅を売却した時点で、その家は自分の所有物ではなくなります。その後は所有者ではなく「賃借人」として家賃を払いながら住むことになります。
そのため、「家賃を値上げすると言われた」「値上げに応じないなら退去するよう求められた」「定期借家契約が終わり、再契約してもらえない」「買い戻そうとしたら高額な価格を提示された」といった問題が起きることがあります。
国民生活センターは2026年8月4日、自宅のリースバックをめぐる新たな相談事例を公表しました。実際に、月7万円だった家賃を約10万円へ値上げすると告げられ、応じなければ退去するよう繰り返し迫られたという相談も紹介されています。
リースバック自体が危険な仕組みというわけではありません。住み替えまでの期間が決まっている場合や、売却後の家賃を無理なく払える場合には、選択肢の一つになります。ただし、「売却」と「賃貸借」という二つの重要な契約を同時に結ぶため、仕組みを理解しないまま契約すると、生活の基盤である住まいを失う可能性があります。
この記事では、リースバックの基本的な仕組み、家賃値上げや退去要求への考え方、契約前に必ず確認したい7項目を、国土交通省と国民生活センターの情報をもとに整理します。
この記事で分かること
- 自宅のリースバックがどのような契約なのか
- 契約後に家賃が値上げされる可能性
- 普通借家契約と定期借家契約の違い
- 値上げを断ると退去しなければならないのか
- 売却価格や買戻し価格で注意したいこと
- 契約前に確認したい7つの項目
- トラブルになった場合の相談先
自宅のリースバックとは?

住宅のリースバックとは、自宅を不動産会社などへ売却して売却代金を受け取り、同時にその住宅の賃貸借契約を結ぶ仕組みです。
売却後は、新しい所有者へ毎月家賃を支払うことで、それまで住んでいた家に引き続き住むことができます。
通常の不動産売却では、住宅を引き渡すまでに引っ越しが必要です。一方、リースバックではすぐに引っ越す必要がなく、売却したことが近所に分かりにくいという特徴があります。
また、所有者ではなくなるため、固定資産税や建物の大規模な修繕費などを負担しなくてよい場合があります。ただし、修繕費や設備交換の負担は契約内容によって異なるため、「売却後は修理費が一切かからない」と決めつけることはできません。
リースバックは本当に危険なのか
リースバックには、すぐに現金を得られる、引っ越しを先延ばしにできる、住宅の維持管理負担を減らせるといった利点があります。
一方で、次のような特徴があります。
- 自宅の所有権を失う
- 毎月の家賃が新たに発生する
- 契約内容によっては希望する期間まで住めない
- 一般的な仲介売却より売却価格が低くなる場合がある
- 買い戻せるとは限らない
- 契約解除に高額な違約金が必要になる場合がある
特に注意したいのは、「家を売る契約」と「その家を借りる契約」は別の契約であるという点です。
売却代金が高く見えても、家賃が高ければ手元の資金は早く減ります。反対に家賃が安くても、定期借家契約で再契約が保証されていなければ、数年後に退去しなければならない可能性があります。
一つの条件だけで判断せず、売却価格、家賃、契約期間、更新条件、買戻し条件などをまとめて比較することが重要です。
家賃は契約後に値上げされることがある?
リースバックの家賃が、契約後も必ず同じ金額で続くとは限りません。
賃貸借契約では、土地や建物にかかる税負担、物件価格、経済事情、周辺の家賃相場などが変化し、現在の家賃が不相当になった場合、貸主または借主が家賃の増減を求めることがあります。
ただし、貸主から値上げを告げられたからといって、提示された金額がそのまま自動的に確定するわけではありません。値上げの根拠や周辺相場を確認し、納得できなければ安易に同意書へ署名しないことが大切です。
契約書では、次の部分を確認しましょう。
- 家賃を見直す時期
- 値上げできる条件
- 家賃の算定方法
- 一定期間は値上げしない特約の有無
- 固定資産税や管理費が上がった場合の扱い
- 貸主が変わった場合も条件が引き継がれるか
口頭で「家賃は上げません」と言われただけでは、後から確認することが難しくなります。重要な説明は契約書や確認書へ記載してもらいましょう。
値上げを断ると退去しなければならない?
貸主から「家賃の値上げに応じないなら退去してください」と言われても、普通借家契約であれば、値上げに同意しなかったという理由だけで直ちに退去が決まるわけではありません。
普通借家契約では、貸主側から契約更新を拒絶したり解約を申し入れたりする場合、契約状況や建物を使用する必要性、これまでの経緯などを踏まえた正当な理由が問題になります。
ただし、家賃を自己判断で一切支払わなくなると、家賃滞納という別の問題が発生します。値上げに納得できない場合でも、支払いを止めたり、言われるまま退去届へ署名したりせず、消費生活センターや法律の専門家へ早めに相談してください。
一方、定期借家契約の場合は注意が必要です。定期借家契約には原則として更新がなく、契約期間が満了すると終了します。貸主と借主の双方が合意すれば再契約できますが、貸主が再契約に応じることを契約段階から当然に保証するものではありません。
「ずっと住めます」という説明を受けていても、契約書が2年間の定期借家契約になっていれば、2年後に住み続けられない可能性があります。
契約前に確認したい7項目

1.売却価格は周辺相場と比べて適正か
リースバックの買取価格は、一般的な仲介売却の査定額より低くなる場合があります。
事業者は、購入後に受け取る家賃、将来の売却価格、建物の維持費、空室や価格下落のリスクなどを考慮して買取価格を決めるためです。
価格が低いことだけで不適切とは判断できませんが、一社の査定だけでは相場との違いが分かりません。通常売却の査定と、複数のリースバック事業者の査定を取り、価格の算定根拠を確認しましょう。
住宅ローンが残っている場合は、売却代金からローン残高、抵当権抹消費用、仲介手数料、登記費用などを差し引き、実際にいくら手元へ残るかを計算する必要があります。
2.現在の家賃と将来の値上げ条件
家賃は「毎月いくらか」だけでなく、何年間なら支払い続けられるかを考えます。
例えば家賃が月10万円なら、年間120万円、5年間で600万円、10年間で1,200万円です。更新料や保証料、火災保険料などが別に必要であれば、実際の負担はさらに増えます。
契約書に家賃改定条項がある場合は、どのような条件で、誰が、いつ見直せるのかを確認します。「近隣相場の変動に応じて協議する」といった表現だけでなく、説明された条件を具体的に書面へ残してもらうことが大切です。
3.普通借家か定期借家か
長期間住み続けたい場合、賃貸借契約の種類は非常に重要です。
普通借家契約は契約更新を前提とするのに対し、定期借家契約は契約期間の満了によって終了します。「再契約可能」と書かれていても、「必ず再契約できる」という意味とは限りません。
次の事項を書面で確認しましょう。
- 普通借家契約か定期借家契約か
- 契約期間は何年か
- 更新または再契約の条件
- 再契約を断られる可能性
- 契約終了時の通知方法
- 途中解約できる条件
「できれば一生住みたい」という希望がある人と、「3年後に高齢者住宅へ移る予定」という人では、選ぶべき契約条件が異なります。
4.売却代金が何年でなくなるか
売却代金を受け取ると、一時的に資金が増えたように感じます。しかし、その資金から借金を返済し、さらに毎月の家賃や生活費を払えば、予想以上に早く減ることがあります。
国民生活センターは、住む期間が長くなると、家賃の支払総額が自宅の売却金額を上回る場合があると注意を呼びかけています。
少なくとも次の3つのケースで資金計画を作りましょう。
- 現在の家賃が変わらないケース
- 数年ごとに家賃が上がるケース
- 医療費や介護費が増えるケース
借金返済や生活費不足が理由でリースバックを利用する場合、売却後に家賃という固定費が増えます。収入が増えないまま固定費だけが増えると、最終的に家賃を払えず退去を求められる可能性があります。
5.修繕費・原状回復・所有者変更の扱い
売却後は、これまで自分の家だった住宅が賃貸住宅になります。
給湯器、エアコン、屋根、外壁、水回りなどが故障した場合、誰が修理費用を負担するのか確認してください。設備によって貸主負担と借主負担が分かれている場合もあります。
また、退去時には原状回復費用が問題になることがあります。長年自分の家として使ってきた傷や設備の変更が、売却後の契約でどのように扱われるのかも確認しておきましょう。
リースバック事業者が住宅を別の会社や投資家へ売却する可能性もあります。所有者が変わった場合の連絡方法、家賃の振込先、賃貸借条件の扱いについても契約前に説明を求めましょう。
6.買戻し価格と期限が明記されているか
「将来お金に余裕ができたら買い戻せます」と説明されても、買戻し特約が契約書に記載されていなければ、事業者が買戻しに応じる義務がない場合があります。
国民生活センターが2026年8月に公表した相談事例では、自宅マンションを200万円で売却した人が買戻しを希望したところ、1,000万円を提示されたケースが紹介されています。
将来買い戻す可能性がある場合は、次の点を確認してください。
- 買戻し特約があるか
- 買戻しできる期限
- 買戻し価格または計算方法
- 税金や諸費用を誰が負担するか
- 家賃滞納などで買戻し権を失う条件
- 第三者へ売却された場合の扱い
「売った金額と同じ価格で戻せる」とは限りません。買戻し価格が売却価格より高くなることを前提に、現実的に資金を準備できるか検討しましょう。
7.解除条件・違約金・相談する時間があるか
消費者が不動産業者へ自宅を売却するリースバック契約には、宅地建物取引業法上のクーリング・オフは適用されません。
契約後に気が変わっても、無条件で取り消せるとは限りません。手付解除が可能な時期を過ぎると、契約書に定められた違約金を請求される場合があります。
その場で契約を求められても、すぐに署名や押印をしないでください。契約書、重要事項説明書、賃貸借契約書、買戻しに関する書類を持ち帰り、家族や専門家と一緒に確認しましょう。
複数社を比較させない、「今日だけの条件」と急がせる、長時間居座る、断っても勧誘を続けるといった事業者には注意が必要です。
2026年10月から国のガイドラインが施行予定
国土交通省は2026年7月、「住宅のリースバック取引における宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」を策定しました。施行日は2026年10月1日です。
このガイドラインでは、リースバックを扱う宅建業者が、売買だけでなく賃貸借の重要な条件についても適切に知らせる必要があることを明確にしています。
特に、次のような事項を故意に伝えない行為は、宅地建物取引業法に抵触する可能性があります。
- 契約解除や違約金
- 買戻し特約の有無と内容
- 家賃の額と支払方法
- 家賃増額に関する条件
- 契約期間と更新・再契約
- 修繕費用の負担区分
さらに、断った後も勧誘を続ける、長時間にわたって勧誘するなど、「押し買い」に当たる不適切な行為についても規制の対象になることが明確化されています。
ただし、ガイドラインが施行されても、契約書を確認せずに署名してよいという意味ではありません。自分の希望と契約内容が一致しているかを確認することが、引き続き最も重要です。
リースバック以外の方法も比較する

まとまった資金が必要でも、リースバックだけが選択肢ではありません。
- 通常の仲介売却をして、家賃の安い住宅へ住み替える
- 住宅ローンの借り換えや返済条件変更を金融機関へ相談する
- 自宅を担保にしたリバースモーゲージを検討する
- 自治体や社会福祉協議会の相談窓口を利用する
- 家族と同居や住み替えについて話し合う
- 債務整理を弁護士や司法書士へ相談する
リバースモーゲージにも対象住宅、年齢、金利、評価額下落などの条件があり、誰にでも適しているわけではありません。それぞれのメリットだけでなく、毎月の支払い、住める期間、相続への影響まで比較しましょう。
契約前の最終チェックリスト
- 通常売却を含む複数社の査定を取った
- 売却価格の算定根拠を確認した
- ローンや費用を差し引いた手取り額を計算した
- 10年程度の家賃総額を計算した
- 家賃値上げの条件を書面で確認した
- 普通借家か定期借家か確認した
- 更新・再契約が保証されない場合を想定した
- 修繕費と原状回復の負担を確認した
- 買戻し価格と期限が書面に記載されている
- 解除条件と違約金を確認した
- 家族や第三者へ契約書を見せた
- その日のうちに契約するよう急かされていない
よくある質問
リースバックなら一生住み続けられますか?
必ず一生住めるわけではありません。家賃を支払い続けられることに加え、普通借家か定期借家か、更新や再契約の条件がどうなっているかによって居住できる期間が変わります。
家賃の値上げを言われたら必ず応じる必要がありますか?
貸主から提示された金額が自動的に確定するわけではありません。値上げの根拠や周辺相場を確認し、納得できなければすぐに署名せず相談しましょう。ただし、自己判断で家賃の支払いを止めることは避けてください。
契約後にクーリング・オフできますか?
消費者が不動産業者へ自宅を売却する契約には、宅地建物取引業法上のクーリング・オフは適用されません。解除できても手付金や違約金が必要になる場合があるため、契約前の確認が重要です。
トラブルになったらどこへ相談すればよいですか?
まずは消費者ホットライン「188」へ相談すると、最寄りの消費生活センターにつながります。退去要求、契約解除、違約金、買戻しなど法律上の判断が必要な場合は、弁護士や法テラスへの相談も検討してください。
まとめ

リースバックは、自宅を売却してまとまった資金を得ながら、一定期間同じ家に住める方法です。住み替え時期が決まっており、家賃を無理なく支払える人には役立つ場合があります。
しかし、「売却後も今までどおり住める」という説明だけで判断するのは危険です。売却後は所有者ではなく賃借人となり、家賃の支払い、契約期間、更新、修繕、退去など、賃貸住宅としての条件に従うことになります。
契約前には、売却価格、家賃と値上げ条件、普通借家・定期借家の違い、長期の資金計画、修繕負担、買戻し条件、違約金の7項目を必ず確認してください。
特に、住み替える予定がなく「できる限り今の家に住み続けたい」と考えている場合は、自宅の所有権を手放す判断を急ぐべきではありません。一社の説明だけで決めず、通常売却やほかの資金調達方法も比較し、家族や専門家へ相談してから判断しましょう。
※本記事は2026年8月8日時点の公的情報をもとに、一般的な制度と注意点を整理したものです。個別の契約条件や法的な判断については、消費生活センター、弁護士、宅地建物取引の専門家などへご相談ください。
参考にした公式情報
- 国民生活センター「自宅の『リースバック』トラブルにご注意!」
- 国土交通省「住宅のリースバックに関するガイドブック」
- 国土交通省「住宅のリースバック取引における宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」
- 消費者庁「資産の運用・処分は取引の仕組みや目的がきちんと納得できてから!」
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