大雨のあと、駐車していた車の周囲から水が引くと、「ドアを開けて確認したい」「エンジンが動けば修理に出せるのでは」と考えるかもしれません。しかし、冠水した車は外観に異常がなくても、内部に水や泥が入り、電気系統のショートや発火、エンジンの重大な損傷につながるおそれがあります。
2026年8月13日から14日にかけて千葉県で記録的な大雨となり、道路の冠水や車の立ち往生が相次いだと報じられました。こうした豪雨では、駐車中の車が水に浸かるだけでなく、走行中に水位が急上昇し、車内に閉じ込められる危険もあります。
この記事では、冠水後の初動、一般車とEV・HVの違い、脱出方法、保険や売却時の注意点を整理します。車より人命が最優先です。水流、道路の崩落、切れた電線、取り残された人を確認した場合は、車へ近づかず119番または110番へ連絡してください。
先に結論
- 水が引いても、自分でエンジンや電源を入れない
- 車内へ水が入った形跡があれば、走行できそうでも動かさない
- EV・PHEV・HVは高電圧部品やバッテリーへ触れない
- 安全な場所から写真を残し、原則として保険会社へ先に連絡する
- JAFなどのロードサービスで、受け入れ可能な整備工場へ搬送する
千葉県の豪雨で道路冠水と車の立ち往生が相次いだ

2026年8月13日から14日にかけて、千葉県では線状降水帯などの影響による激しい雨が続き、各地で道路冠水や浸水被害が発生しました。短時間に雨量が増えると、排水が追いつかず、低い道路やアンダーパス、地下駐車場などへ水が集中します。
普段から通っている道でも、濁った水の下に段差、側溝、開いたマンホールが隠れている場合があります。水深は車内から正確に判断できず、前の車が通れたとしても、自分の車で通れるとは限りません。車高、吸気口の位置、走行速度、水の流れによって危険性が変わるためです。
国土交通省は、水深が車両の床面を超えると、車内への浸水や電気装置の故障、エンジンやモーターの停止などが起こるおそれがあると注意しています。床面より浅く見えても、速度を出すと車が作った波が吸気口へ入り、エンジンが停止する場合があります。冠水路を見つけた時点で進まず、引き返すか高い場所へ迂回することが基本です。
どこまで水に浸かると「冠水車」になる?
中古車の査定では、一般に室内のフロア以上まで浸水した車や、浸水の痕跡によって商品価値の低下が見込まれる車が「冠水車」「水害車」などとして扱われます。ただし、これは主に査定上の考え方です。「床まで入っていないから安全に運転できる」という境界線ではありません。
水位が低くても、走行時の波が吸気口へ入ったり、床下の配線やセンサーが影響を受けたりします。カーペットの濡れ、泥の線、警告灯、走行中の停止があれば、深さを自己判断せず点検を受けてください。
冠水した車にエンジンをかけてはいけない理由
電気系統がショートし、発火するおそれがある
現代の車には、エンジン制御、エアバッグ、ブレーキ、パワーウインドウなどに関係する多数の配線や電子部品があります。水や泥が入り込むと、絶縁が保てずショートする可能性があります。いったん乾いたように見えても、内部に残った水分や泥、塩分によって腐食が進み、時間がたってから不具合や発熱が起こることもあります。
キー、スタートボタン、アクセサリーモードの操作は、濡れた回路へ通電させます。「一度だけ」の動作確認も自分で試さないでください。
エンジン内部へ水が入ると大きく損傷することがある
ガソリン車やディーゼル車では、吸気口から水を吸い込むと、シリンダー内へ水が入ることがあります。空気と違って水はほとんど圧縮できないため、ピストンが動こうとした力で内部部品へ大きな負荷がかかります。いわゆるウォーターハンマーによって、コンロッドなどが変形し、修理範囲が広がる可能性があります。
油脂類へ水が混ざっていることもあり、始動できても正常とは限りません。自走せず、レッカーや積載車で搬送します。
駐車中の車が冠水したときの行動順序
- まず周囲の安全を確保する
水が残っている場所へ入らず、流れ、陥没、切れた電線、土砂崩れの危険がない場所から確認します。車を確認するために濁った水の中を歩いてはいけません。 - エンジンや車両電源を入れない
水が引いていても、始動、充電、窓の開閉、電動シートの操作などをむやみに試さないようにします。スマートキーで解錠できても、安全に走れることを意味しません。 - 安全な位置から被害を記録する
車の四方向、周囲の状況、泥や水位の跡、車内の浸水、メーターの状態などを撮影します。撮影のために車内へ入ったり、危険な道路へ近づいたりする必要はありません。 - 保険会社または代理店へ連絡する
契約内容、指定ロードサービス、搬送先、修理前に必要な写真や手続きを確認します。先に処分や分解を進めると、損害確認が難しくなる場合があります。 - JAFなどへ搬送を依頼する
冠水車であること、車種、EV・PHEV・HVかどうか、水位の目安、現在地を伝えます。自分で押したり、別の車でけん引したりしないでください。 - 整備工場で点検を受ける
受け入れ可能かを確認してから搬送します。販売店や整備工場には、浸水した日時、淡水か海水か、走行中に停止したか、始動操作をしたかを正確に伝えましょう。
車が公道をふさいでいる、油や液体が漏れている、煙や焦げ臭さがある場合は、通常の保険連絡より先に110番や119番へ連絡します。立体駐車場や商業施設なら、施設管理者にも知らせてください。
バッテリーのマイナス端子は自分で外してもよい?
国土交通省は、浸水した一般車について、使用するまでの発火を防ぐために12Vバッテリーのマイナス側端子を外すよう案内しています。一方で、作業場所が濡れている、車の構造が分からない、工具の扱いに慣れていない場合は、感電、ショート、けがにつながる可能性があります。
一般のガソリン車・ディーゼル車でも、まず取扱説明書と販売店、整備工場、ロードサービスの指示を確認しましょう。水が残る場所や濡れた状態で作業せず、自信がなければ専門業者へ任せてください。
EV・PHEV・HVは自分で対処しない
電気自動車、プラグインハイブリッド車、ハイブリッド車は高電圧の駆動用バッテリーを搭載しています。12Vバッテリーだけに見えても、車両全体の状態を利用者が判断することはできません。オレンジ色の高電圧ケーブル、サービスプラグ、駆動用バッテリー、露出した配線には触れず、メーカー系販売店や対応可能な整備工場、ロードサービスへ相談してください。
運転中に水が増えてきたときの脱出方法

冠水路へ入らないことが最善ですが、急激な増水で車が動かなくなる場合もあります。国土交通省によると、水がドアの下端へかかると水圧でドアを開けにくくなり、ドアの高さの半分を超えると内側からほぼ開けられなくなります。タイヤが完全に水没すると、車体が浮いて流されるおそれもあります。
- 動けるうちに冠水路から離れる
進行方向の水が深いと感じたら進まず、可能なら引き返します。車が停止した場合は、流れが強くなる前に周囲を確認し、安全な高い場所へ避難します。 - シートベルトを外す
バックルが外れない場合に備え、運転席から手の届く位置へシートベルトカッターを備えておくと役立ちます。グローブボックスや荷室では、緊急時に届かない可能性があります。 - 窓が動くうちに開けて脱出する
電気系統が停止する前に窓を開け、窓から車外へ出ます。荷物を取りに戻らず、同乗者の脱出を助けながら命を優先します。 - 窓が開かなければ脱出用ハンマーを使う
水面より上にあるドアガラスまたはリヤガラスの端を、緊急脱出用ハンマーで割ります。フロントガラスは合わせガラスで割りにくく、一部車種ではドアガラスも合わせガラスです。自分の車のガラス仕様を取扱説明書やメーカーで事前に確認しておきましょう。 - どうしても割れない場合は水圧差が小さくなる瞬間を待つ
窓もドアも開かず、ガラスも割れない場合、車内外の水位差が小さくなるとドアが開きやすくなります。これは最後の手段です。大きく息を吸い、足なども使ってドアを押し開け、一気に脱出します。
車外へ出たあとも、流れのある水へむやみに入るのは危険です。ガードレールや屋根の上など、その場でより高く安定した場所を確保し、119番へ救助を求めます。自分で車を回収しようとしないでください。
一般車・ハイブリッド車・電気自動車の違い
車の種類主な危険利用者が避けること ガソリン車・ディーゼル車吸気口からの浸水、電装品のショート、油脂類への水混入、腐食始動、自走、濡れた場所での無理な端子作業 ハイブリッド車・PHEV一般車と同じ危険に加え、高電圧バッテリーと配線の損傷高電圧部品、オレンジ色の配線、サービスプラグへ触れること 電気自動車駆動用バッテリーや高電圧系統の損傷、警告表示、遅れて発生する異常車両電源の投入、充電、自己判断での端子・バッテリー作業
EVはエンジンがないため冠水路に強い、という考えは危険です。JAFの冠水路走行テストでも、走行を続けられたEVに複数のシステム故障警告が表示された例があります。HVにはエンジンも高電圧システムもあるため、両方のリスクを考える必要があります。
駆動用バッテリーは通常、安全性を考えて設計されていますが、事故や浸水後の状態を外から判断することはできません。車種に対応した搬送方法もあるため、ロードサービスへ依頼するときは必ず車名と動力の種類を伝えてください。
JAF・保険会社・整備工場はどこへ先に連絡する?

人命や火災の危険がある場合は119番、道路上の危険や交通の妨げがある場合は110番が最優先です。緊急性がなく、駐車中の車が水に浸かった場合は、次の順序が分かりやすいでしょう。
- 保険会社・保険代理店へ事故受付
- 保険会社付帯のロードサービスまたはJAFへ搬送依頼
- 販売店・整備工場へ受け入れと点検を依頼
保険会社なら、補償の対象、提携工場、レッカー費用、搬送距離、代車特約を確認できます。先にJAFを呼んだ場合も、費用の扱いを保険会社へ早めに確認しましょう。
水が残る場所や道路規制中は、JAFもすぐに作業できないことがあります。整備工場も混雑するため、搬送前に受け入れを確認しましょう。
自動車保険で冠水被害は補償される?
台風、豪雨、洪水、高潮などによる車の損害は、任意保険に「車両保険」が付いていれば補償対象となるのが一般的です。限定型やエコノミー型でも風水害を対象とする商品はありますが、契約によって補償範囲、免責金額、支払限度額が異なります。対人・対物を補償する自賠責保険だけでは、自分の車の浸水損害は補償されません。
地震、噴火、津波による損害は通常の車両保険では対象外となることが多く、特約の有無を確認する必要があります。また、保険を使用したあとの等級への影響も契約によって確認が必要です。「水害なら必ず全額出る」と考えず、証券や契約者ページを確認し、保険会社へ問い合わせてください。
連絡前に用意したい情報
- 契約者名、証券番号、車両番号
- 浸水した日時と場所
- おおよその水位と車内への浸水状況
- 走行中だったか、駐車中だったか
- エンジンや車両電源を入れたか
- 現場と車両の写真・動画
- 警察、消防、自治体、施設管理者へ連絡した場合はその内容
片付け、修理、売却、廃車を急ぐ前に、保険会社が必要とする損害確認の方法を聞きましょう。泥が付いた部品や濡れた物を処分する場合も、先に写真を残し、処分してよいか確認すると手続きが進めやすくなります。
修理・売却・廃車を決めるときの注意点
冠水車は一時的に動いても、腐食、センサー故障、カビや異臭が後から現れることがあります。修理費、再発の可能性、年式、車両価値、海水や泥水への浸水状況を整備工場と保険会社へ確認しましょう。
売却する場合は、浸水した事実、車内へ入った水位、始動の有無、修理内容を査定業者へ正確に伝えます。冠水歴を隠すと、売却後に契約解除や返金を求められるなどのトラブルにつながる可能性があります。査定書や契約書に冠水歴が記載されているか、引き取り後の減額条件やキャンセル料も確認してください。
廃車にする場合も、保険会社の確認が終わる前に解体へ出さないようにします。ローンが残っていて車検証上の所有者が販売会社や信販会社になっている場合は、所有権解除の手続きが必要になることがあります。登録抹消、税金、自賠責保険、リサイクル料金、レッカー費用を含め、受け取れる金額と支払う費用を書面で確認しましょう。
よくある質問

水が完全に引いたらエンジンをかけても大丈夫ですか?
いいえ。外側が乾いていても、配線、制御装置、吸気系統、油脂類の内部状態は分かりません。始動によってショートや発火、エンジン損傷を招くおそれがあるため、動かさずにロードサービスと整備工場へ相談してください。
タイヤの半分くらいまでなら冠水車ではありませんか?
中古車査定上は室内フロア以上の浸水が一つの基準ですが、安全性はタイヤの高さだけでは判断できません。流れや波があると浅い水でも車体が不安定になり、吸気口や電装品へ水が入る場合があります。冠水路には進入しないことが基本です。
車内のカーペットだけが濡れた場合も点検が必要ですか?
必要です。カーペットの下には配線や電子部品が配置されている車種があり、断熱材に水分が残ることもあります。表面だけを乾かして使用を再開せず、浸水範囲を整備工場で確認してください。
バッテリーのマイナス端子は必ず自分で外すべきですか?
一般車について国土交通省は端子を外すよう案内していますが、濡れた場所での作業や知識のない状態での作業は危険です。安全な場所から専門業者へ相談し、取扱説明書と指示に従ってください。EV・PHEV・HVは自分で対処せず、高電圧部品を含めて触らないでください。
JAFと保険会社のロードサービスは両方使えますか?
利用条件や費用の組み合わせは契約によって異なります。まず保険会社へ連絡し、付帯サービスの内容と搬送先を確認するとスムーズです。危険な場所で待つ必要がある場合は、連絡順にこだわらずJAFや警察、消防へ助けを求めてください。
車両保険に入っていれば修理費は全額出ますか?
必ず全額とは限りません。免責金額、車両保険金額、損害の程度、契約タイプによって支払額が変わります。修理費が車の時価額などを上回り全損扱いとなる場合もあるため、修理を始める前に保険会社の査定と説明を確認してください。
海水に浸かった車は真水の場合と違いますか?
海水は塩分を含むため、金属や電気部品の腐食が進みやすいと考えられます。ただし、真水や泥水でも安全とはいえません。どちらの場合も始動せず、浸水した水の種類を整備工場と保険会社へ伝えてください。
まとめ
水が引いても自分でエンジンや車両電源を入れないでください。残った水や泥が、ショート、発火、エンジン損傷、後から進む腐食につながるおそれがあります。
走行中は車より脱出を優先し、シートベルトを外して窓から出ます。開かなければ脱出用ハンマーを使います。割れない合わせガラスもあるため、平常時に車の仕様を確認しましょう。
水が引いたら被害を記録し、保険会社、ロードサービス、整備工場へ連絡します。EV・PHEV・HVの高電圧部品には触れません。修理、売却、廃車の前に保険確認を済ませ、冠水歴を正確に伝えましょう。
※本記事は2026年8月14日時点の公表情報をもとに、一般的な対処法をまとめたものです。実際の対応は車種、浸水状況、道路状況、保険契約によって異なります。現場では警察・消防・自治体の指示を優先し、車両についてはメーカー、販売店、整備工場、ロードサービス、保険会社へ確認してください。
参考情報
- 国土交通省「水深が床面を超えたら、もう危険!」
- 国土交通省「浸水・冠水被害を受けた車両のユーザーの方へ」
- JAF「自動車が水没したときの対処と脱出方法とは?」
- JAF「冠水路走行テスト」
- 日本損害保険協会「大雨で床上浸水に!保険で補償されるの?」
- FNNプライムオンライン「千葉県の大雨・道路冠水に関する報道」
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